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Virtual Art Book Fair

Rafaël Rozendaal Exhibition

DUTCH ARTISTS’ BOOK:
THEN AND NOW

エクスペリメンタル・ジェットセット/Experimental Jetset

1997年、マリエケ・ストルク、アーウィン・ブリンカーズ、ダニー・ファン・デン・ダンゲンによって設立されたグラフィックデザインスタジオ。印刷物やサイトスペシフィックなインスタレーションを手がける。クライアントにアムステルダム市立美術館、ポンピドゥーセンター、ホイットニー美術館など。2013年よりヴェルクプラーツ・ティポグラフィ(WT)にて教鞭を執る。


Random snapshots from the studio of Experimental Jetset (selection).
Photographed by Johannes Schwartz, 2014.


Questions to Experimental Jetset

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Experimental Jetset in Melbourne, 2018 Photo courtesy of Kotoko Koya From left to right: Erwin, Danny, Marieke

1: 日本のオーディエンスのために、あなた方のことについて教えてもらえますか?

シンプルに「グラフィックデザイン・コレクティヴ」と自分たちのことを説明することが多いです。しかし実のところ、私たちが考える「グラフィックデザイン」とはかなり広範囲に渡るものです。

私たちにとって「グラフィックデザイン」の定義の中核は「言語を物質に変換する(またはその逆)」ということで、私たちの活動の全てがグラフィックデザインの表現であると考えています。本をデザインしていても、サイトスペシフィックなインスタレーションを作っていても、企業等のビジュアルアイデンティティを練っていても、展覧会をキュレーションしていても、タイプフェイスを考えていても…あるいは執筆、アーカイヴ、収集、リサーチ、出版、そして教えることも、その全てがグラフィックデザインという傘の下にあります。

自分たちの活動が「多領域的」または「領域横断的」だと考えていたこともありましたが…しかし、最近になって自分たちの活動は「非領域的」なのではないかと気づいたのです。私たちは専門領域、カテゴリー、そしてジャンルというものを信じていませんから。

私たちは、グラフィックデザインはどんな意味をも持てると思っています。私たちにとってこれは「ブランケット的用語」であり、常に新しい意味、新しい定義、新しい解釈を内包できるものです。

それを踏まえて(そして端的に言えば)、私たちはアムステルダムを拠点に活動するグラフィックデザイン・コレクティヴで、そのメンバーはマリエケ・ストーク、アーウィン・ブリンカーズ、ダニー・ヴァン・デン・ダンゲンの 3 人です。私たちはヘリット・リートフェルト・アカデミー(アムステルダム)で出会い、1997 年の卒業以来、ずっと Experimental Jetset として活動しています。

2: あなたたちの経歴を簡単に教えてください。

80 年代に 10 代を過ごしたので、私たちは常にポスト・パンクのサブカルチャー(ニューウェーヴ、サイコビリー、モッズ、スカ、ガレージ・ロック、ハードコア・パンクなど)に関心を抱いていました。私たちがグラフィックデザインを意識しはじめたのも、これらのサブカルチャーのビジュアル表現(レコードジャケット、ファンジンなど)からでした。

80 年代後半(私たちが高校生だった頃)には、すでにファンジン、コミック、シルクスクリーンの T シャツ、そしてミックステープなどを作りはじめていました。それら全てがポスト・パンク文化に関係するものです。

90 年代初頭、私たちはなんとなくアートスクール(前述のヘリット・リートフェルト・アカデミー)に入学するに至り、そこでもファンジンを作り続けていました。初めて実際に手がけたデザインプロジェクトとして、アムステルダムにあるライブハウス Paradiso のフライヤーやポスターを作りはじめたのもその頃です。

1997 年に卒業してからは、活動は国外にも広がっていきました。その点で言うと、パリのポンピドゥー・センターで 2000 年に開催されたグループ展「Elysian Fields」のカタログをデザインしたことは、私たちにとっても大きな一歩でした。私たちの記憶の中に、いまも強く刻まれたプロジェクトです。

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‘Elysian Fields'
Art catalogue designed by Experimental Jetset
Centre Pompidou and Purple Institute (Paris), 2000

2000 年ごろからは教職につき、まずはヘリット・リートフェルト・アカデミー(アムステルダム)で、そして今は ARTEZ のヴェルクプラーツ・タイポグラフィ(アーネム)で教えています。

2000 年代に入って以降はいろいろあってあやふやです。

3: アートブックに興味を持ったきっかけは覚えていますか?

そうですね、その質問に答える前に、「アートブック」と言う言葉そのものについてお話しした方が良いかもしれません。

私たちの活動(その方法や思想)は、デ・ステイル、バウハウス、ロシア構成主義、未来派、ダダ、シチュアニスト・インターナショナル 、フルクサス、ポップ、PROVO やパンクなどのモダニストムーヴメントの影響を受けたものです。
これらのムーヴメントに共通することは、それぞれの方法でアートと日常の融合を試みたことでしょう。言い換えれば、これらのムーヴメントは生活そのものをアートの作品に変化させようとしたのです。社会は集合的に作り上げた作品、いわゆる総合芸術であり、誰もがアーティストとして、自身の活動の創造主となることができます(「すべての人間はアーティストである」とかつてヨーゼフ・ボイスが言ったように)。

アートやデザイン活動はさまざまな方法でアートと日常の融合を目指すべきだというモダニスト的な考え方は、今も私たちの指針になっています。
ですから私たちは、理想的な環境においてはすべての本がアートブックと認識されるべきだと考えます。

すべての本は、デザイン、印刷、製本など本作りにおける工程に関わった労働者による美術表現として見られるべきです。理想的な世界の中では、一冊一冊の本がそれぞれに美術作品と認識されるべきなのです。

言い換えれば、電話帳ですらもアートブックとして認識されるべきだと私たちは考えます。

実は、創造者による美術的表現としての電話帳も存在します。例えば、ウィム・クロウェルと彼のチーム Total Design がデザインした電話帳は、コンセプチュアル/ミニマル・アートの作品として見ることができるでしょう。
www.wimcrouwelinstituut.nl/nago/dossier.php?id=15175

(もちろん、自身のことをアーティストであると考えなかったウィム・クロウェル自身はこのような考えを嫌ったでしょう。しかし私たちはそう思いません。彼は紛れもない詩人でした。)

私たちの前提としては:
すべての人間はアーティストとして見られるべきだとボイスが言ったように、すべての本はアートブックとして見られるべきなのです。

4: あなたに影響を与えたアートブックを一冊(あるいはそれ以上)教えてください。

a.
先に述べたように、80 年代後半から 90 年代中頃にかけて自分たちで集めて読んでいたファンジンから大きな影響を受け、インスピレーションを得てきました。頭に浮かんだものをいくつか挙げると、Murder Can Be Fun、Drew、Skate Muties、Ben is Dead、Dishwasher などなど。
www.instagram.com/p/BdxgFl9ALLy/
www.instagram.com/p/BcFVtffggMP/

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fanzines between the late ’80s to the mid-’90s

b.
もう一つ、私たちがインスピレーション源として参考にしているのは、一般的なペーパーバックです。そのようなペーパーバックが、反主流のアイディアをメインストリームに乗せる媒体でありえるからです。 それは特に 1960 年や 70 年代に顕著で、かなり先鋭的なデザインのペーパーバックが、スーパーマーケットやキオスク、図書館などさまざまな場で広く流通していました。ポップカルチャーに大きな影響を与えた、そのような紙のインフラがあったのです。
ですから、ペーパーバックというフォーマットにはすごくインスパイアされるのです。具体的な例を挙げると、クエンティン・フィオーレがデザインした書籍がまず思い浮かびます(マクルーハンの『メディアはマッサージである』(原題:The Medium is the Massage)、ジェリー・ルービンの『Do it!―革命のシナリオ』(原題:Do It)、アビー・ホフマンの『イッピー! : アメリカの「若者革命」宣言』(原題:Revolution for the Hell of It)、リチャード・バックミンスター・フラーの『I Seem to be a Verb』 などです。

このレクチャーでは、私たちがペーパーバックへの愛を語る様子を少し見ることができます:
www.youtube.com/watch?v=HyNeowONNzA

c.
大好きなペーパーバックの一例として、クリウェットの『Apollo Amerika』(Edition Suhrkamp / SV, 1969 年)があります。
実はこの本のフォーマットが、昨年 Roma Publications から出版された書籍『Full Scale False Scale』に取り組んでいた私たちにとって最大のインスピレーション源でした。

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Full Scale False Scale
Roma Publications, 2019

d.
ウィリアム・クラインは写真家として、そして映画監督としてその名を知られる存在ですが、彼はまた、素晴らしいグラフィックデザイナーでもあります。彼の書籍『Mister Freedom』は、私たちのグラフィック言語にも確かな影響を与えています。
(私たちがウィリアム・クラインを知ったのは 90 年代中頃、彼の作品が日本の素晴らしいバンドピチカート・ファイヴによってなされたオマージュからでした)

e.
私たちは、1965 年から 67 年の間アムステルダムで勃興したアナーキストムーヴメント Provo をテーマにした展覧会を 2 つキュレーションしています。結果として、雑誌、パンフレット、ジャーナル、ブックレット、ポスターなど、かなりの数の Provo 関連印刷物が私たちの手元に集まりました。Provo が生み出したグラフィックは私たちに大きな影響を与えました。アーカイブからいくつか選んでここに掲載しています:
http://2or3things.tumblr.com/

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Provo Magazines (issues 1–15)
the Provo collective (of which Rob Stolk was one of the main founders), 1965–1967

これら印刷物のほとんどは、Provo ムーヴメントを生み出した中心人物のひとり、ロブ・ストーク(マリエケのお父さん)によって印刷されたものです。

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10 Maart
De Parel van de Jordaan, 1966
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Blauwe Maandag: Omdat Mijn Huis Daar Stond
Rob Stolk,1975

f.
そうして考えると、スウィップ・ストーク(実はマリエケのおじさんです)が 1968 年にデザインした『Environments』にも触れなければならないでしょう。これは本当に素晴らしい出版物で、電子ボードゲームを再構築したものです。
www.stedelijk.nl/en/collection/80744-swip-stolk-environments

g.
名前をあげたい本は尽きません。例えば、ヴォルフ・フォステル(特に 1969 年に出版された、アイコニックな『Kunst der Sechziger Jahre(60 年代の芸術)』)がデザインした本など。
『全地球カタログ』(原題:The Whole Earth Catalogue)も好きです(嫌いな人なんているでしょうか?)
Something Else Press が出版した本(『An Anthology of Concrete Poetry』、『Found Poems』、『An Anecdoted Topography of Chance』など)、シスター・コリータのスクリーンプリント入りボックスセット(1968 年)、ル・コルビュジエの『‘Le Poème Électronique』(1958 年)、Destroy All Monsters の『Geisha This』(1968 年)、ミュリエル・クーパーがデザインした有名なバウハウス本(1969 年)、リチャード・プリンスの『Spiritual America』(1991 年)と『Adult Comedy Action Drama』(1995 年)

そしてフルクサスも忘れてはなりません。ジョージ・マチューナス、ディーター・ロス、ハンスイェルク・マイヤー…

などなど、
などなど、
などなど。

どこまでも続けることができそうです。
しかしここでやめておきましょう!

5: 新型コロナウイルスによって人びとの振る舞いや生活様式が劇的に変化したこの状況下で、社会に対する私たちの考え方も完全に変わってしまいました。この大きな変化の中、社会においてグラフィックデザインが果たせる役割も多いと思います。アーティストとして、この状況についてどのように思われますか? グラフィックデザイン、ひいてはクリエイティヴ業界全体でどのような変化が見られるのでしょうか? 日本のオーディエンスに、それについての考えを教えてください。

そうですね、この機会に、危機の時代における印刷物の役割について話したいと思います。

私たちとしては、印刷物というメディアがこれほど重要さを持ったことはないと思っています。印刷物は固形で、サステナブルで、安定しています。
情報を流通させるための早急な、直接的で、信頼できる民主的な方法です。
www.instagram.com/p/B9tZtcSlSAt/

オンラインのプラットフォームやデジタルメディアは、特に危機の時代においてはとても脆弱で、信じられないほど脆いものです。電力は止まり、サーバーは限界に達し、モバイル通信網は分断され、ウェブサイトがハックされる、そのような可能性があります。
この先、電力は希少になっていくはずです。サーバー、電子機器、コンピューターネットワークにこれからも頼っていけるという考え方はもう古いのです。未来は、アナログにあります。

それに加えて重要なこととして、紙はアーカイヴし、保管、保存することができますが、デジタル情報はただ霧散するだけです。電子ファイルとは廃れていくものです。
例えば現在、15 年前の CD-ROM を読み込むことはほぼ不可能です。時に、5 年前に作られたウェブサイトにアクセスすることすらできないこともある。
一方で、私たちは 500 年前に印刷された書籍を今でも研究することができます。

デジタルの書類はじきにアクセス不可能となる。それらは、そのうちに廃れる運命にあるデバイス(異なる種類のディスクドライヴ、データストレージ機器など)に頼っていますが、書籍に他のデバイスは必要ありません。
本を読む時に、デバイスやブラウザを必要としないのです。本は完全に自己完結した存在で、必要なものはあなたの左右の目だけなのです。

加えて大切なこと(特に「フェイクニュース」、ミーム戦争、オンラインバブルの時代において)は、印刷物とは今なお開かれた、明晰で、民主的な媒体であり続けています。
もしも路上にポスターが貼られていれば、そこを通るほとんどの通行人が、それを同じように見るでしょう。もちろんそのポスターをどう解釈するかは人それぞれですが、基本的に、ポスターそのものは、その人の階級や人種、ジェンダー、年齢、個人的嗜好にかかわらず、誰からも同じように見えています。
インターネット上ではそれが当てはまらず、ウェブサイトやウェブページは見ている人の個人的な嗜好や傾向に瞬時に適合して表示されます。グーグル検索の結果は人それぞれに違っており、オンラインの画面に点在する広告は閲覧者をターゲットにし、ヘッドラインはことあるごとに変化する。オンラインの環境がもたらすのは、あらゆる意味で個人主義的な、孤立した体験なのです。アルゴリズムが、その孤独を増幅させています。

ですので、私たちは印刷物がより重要であると考えています。特に、危機、戦争、疫病の時代において。

私たちにとって、印刷は常に個人から集団へ、孤立から連立、単数から多数への運動を意味するものです。
それはとても社会的、民主的なしぐさなのです。
そしてそのプロセスにおいて、グラフィックデザインが中心的な役割を果たしています。

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We Are The World
Art catalogue designed by Experimental Jetset for the Dutch Pavilion (Venice Art Biennial), 2003
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Kelly 1:1
Experimental Jetset
Casco Editions, 2002
03
The People’s Art / A Arte do Povo
Art catalogue designed by Experimental Jetset
art center Witte de With, 2001
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Statement and Counter-Statement: Notes on Experimental Jetset
Experimental Jetset
ROMA Publications, 2015

影響を受けた本

作品集